
ぴきりとキッチンの床が音をたてる朝になった。爪先立ちでヤカンに火を入れ、コーヒーの準備をしてレンジの前にある椅子に座る。脇の扉をあけて煙草の火をつける。湿度の高い風の音だけでなんとなく気分が溶けていく中、寝床から持ってきた本をじっと読み進む。小昼食を終えたキャンピオンとイザートの乗った船が、ボルネオの河で海嘯(ボア)の直撃を受け、転覆し、水しぶきと濁流とビルの高さのような波頭にしばらくの間叩きつけられていく。いよいよ二人の体力が尽きて、水中奥深く沈んでいこうかというところでヤカンの湯が沸いた。本を脇に置き、コーヒーをいれながらふと気がつくと、古書店で手に入れたその本はぐにゃぐにゃと歪み、ぱりぱりに乾いた跡がある。その時まで気がつかなかったが、明らかに一度水に濡れて乾いたものだった。前の持ち主が風呂の中で読んだのか、と、あらためて本を開き、読み進むと、なんとか生還した鉱山技師キャンピオンが王族に語る部分に鉛筆ではっきりと線が引いてある。
『・・・まあ、あれは、スポーツなんて代物じゃないですね。』
鼻で笑ってコーヒーをすすると、蝉の鳴き声。昼食はどうしようかしらん、と計る。
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